がん専門薬剤師養成コース
概要
がん専門薬剤師養成コースでは、病棟および外来化学療法室における、がん薬物療法の調剤業務に携わることにより、化学療法剤、ホルモン剤および分子標的薬剤に関する用法用量、作用メカニズム、副作用、PK/PDなどの臨床薬理学的な知識を習得します。また支持療法や、がん性疼痛などに対する薬剤の選択、最新の各種ガイドラインの治療法を把握できるようにすると共に、抗がん剤を調剤するために必要な技術と品質管理に関する知識を習得します。
さらに、各領域のキャンサーボード・カンファランスに出席し、臨床医等と良好な意思疎通を図り、チーム医療に参画できるよう経験を十分に積みます。これらの実習を通して、最適ながん薬物療法を提供するために必要とされる知識と技術を身につけることが目的です。また、個別に設定されたテーマに沿って研究を推進し、完成させることで学位を取得するとともに、より良いがん治療につながる成果につなげていきたいと考えています。
がん薬物療法における薬剤師の役割と臨床研究
がんの薬物療法に用いられる薬物には、副作用の強い薬物も多く存在します。このため、薬剤部では病棟および外来化学療法室のいずれにおいても、全ての注射薬の調剤を実施しており、抗がん剤が適正使用されるよう、プロトコールに基づき厳重な監査を行っています。また最近、塩酸イリノテカンやタモキシフェンなどの抗がん剤に関して、PKの支配要因である代謝酵素の遺伝子多型に基づいて投与量設計を行うことが推奨され始めています。症例毎に千差万別であるがんに対して、最適な薬物療法を行うためには、使用する薬物のPK/PDに基づいた個別の投与設計が、今後必ず重要になっていくと考えています。東大病院では個別化医療を指向したファーマコゲノミクスのワーキング・グループが稼働しており、薬剤部はこれに積極的に参画して、同意取得の際の詳細説明などを行い、先進医療に積極的に参画しています。このように、がん薬物療法の高度化・個別化に向けた基盤は既に整っており、今後の臨床研究を通して、新たながん薬物療法の標準を東大病院から世界へ発信していきたいと考えています。
東大病院薬剤部の研究スタッフは、抗がん剤排出トランスポーターの研究を通して、がんの抗がん剤多剤耐性獲得のメカニズムを明らかにし、また抗がん剤の体内動態の支配要因を明らかにするなど、世界的に評価の高い基礎研究を展開してきました。現在は基礎研究で得られた知見を臨床へフィードバックするべく、抗がん剤の副作用を定量的に予測するPDモデルの構築などを中心に研究を進めています。これに加え、がん薬物療法の高度化・個別化を指向して、抗がん剤TDMを実施するための基準を策定することを目指し、臨床研究の立ち上げを行っています。「がん専門薬剤師養成コース」に参加された大学院生の皆様には、各自の興味に応じた基礎研究テーマを設定し、推進していくことが可能です。さらに、その応用である臨床研究にも積極的に参画していただきたいと考えています。