がん医療に携わる専門医師の研修コース(インテンシブコース)

概略

 がん専門病院、大学病院、規模の大きな一般病院では、外科医、腫瘍内科医、放射線科医、緩和ケア医が連携してがん診療に当たることが日常的に行われつつあります。しかし、現在のがん医療の多くは最初に受診した一般病院の(臓器別)診療科の主治医が初回治療から終末期までを一貫して担当する場合が多く、その診療内容は主治医の能力と努力(あるいは献身)に左右されているのが現状です。


 また、今後もこのような状況に大きな変化は生じないと考えられます。本コースは、そのような既に一般病院で専門領域のがん診療に従事されている医師を対象として、その専門領域の知見をさらに高めるとともに、診療経験が不十分である領域での経験を積む機会を与えることを目標としています。これによって、初回治療から緩和ケアにいたる横断的ながん診療の能力を習得することが期待されます。

出願資格

 がん診療に興味のある方ならどなたでも研修可能です。特に、専門領域の認定医または専門医を取得されている方、がん薬物療法専門医取得を目指している方を歓迎します。

研修可能な診療科(部)

 本院では、造血器腫瘍、呼吸器腫瘍、肝胆膵腫瘍の化学療法は内科で、消化管癌は内科と外科で、乳癌の化学療法は外科で行っています。化学療法以外に、放射線診療部、緩和ケア診療部、病理部でも研修可能です。本コースでは、以下に紹介する診療科(部)から1科または複数の診療科(部)を選択し、3~12ヶ月間研修します。

A. 血液・腫瘍内科

 東大病院の血液・腫瘍内科では,白血病・リンパ腫などに対して診療を行っています。 適応となる症例に関しては無菌治療部とも連携し、造血幹細胞移植も積極的に行っています。血液・腫瘍内科は化学療法の歴史も長く、移植の前処置を含めて、最も強力な抗癌剤を使用する診療科の一つです。高度な骨髄抑制を含めて、様々な副作用に対する万全の支持療法が要求されます。imatinibやRituximabなどの分子標的療法もいち早く実用化され、使用経験が蓄積されています。

 そのため、血液・腫瘍内科で研修されることは、がん医療のプロフェッショナルを目指す上で非常に有用な経験となるはずです。必要な手技は多くないので、これまでの診療経験を問わず、積極的に診療に参加していただけます。研修内容は個人の要望に応じて、柔軟に対応させていただきます。他院で血液内科を専門とされている方も大歓迎です。

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B. 呼吸器内科

 呼吸器内科では主に肺がん診療を主として、悪性中皮腫や縦郭腫瘍などをふくめた胸部悪性腫瘍を扱っています。肺がんはわが国のがん死亡原因第1位とがん診療で大きな課題となっています。肺がんでは他臓器がんと同様に外科治療、抗がん剤化学療法、放射線療法をがんの組織型や進行度に従い単独あるいは組み合わせた集学的治療が行われます。肺がんは診断時に外科手術不能の進行がんであることが多く、化学療法が治療上主要な役割を果たしています。しかし現在使用できる数種類の新規抗がん剤でも奏功率30%台に留まり、初回治療以降の管理も肺がん診療では重要です。

 治療の目的は根治から生存期間の延長、局所症状の制御や疼痛緩和など患者の症状によりさまざまで、医療者には幅広い知識と経験が必要とされます。治療に伴って時に生じる呼吸器合併症は致死的なものもあり、肺がんのみならず呼吸器疾患全般への広い知識も不可欠です。不幸な転帰をたどる症例では疼痛や呼吸不全などにたいする緩和ケアや心理サポートといった支持療法も診療上で重要です。呼吸器内科ではこれらを呼吸器科専門医とともに学んでいただきたいと考えています。

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C. 消化器内科

 消化器内科では消化管、肝臓、胆道、膵臓の癌に対して、積極的な診断・治療を施行しています。化学療法は各臓器別の癌専門家が担当しており、非常に多数の症例を治療しております。実施臨床だけではなく、各種の治験、自主臨床試験を実施しており、オリジナルなエビデンスを出すためには、臨床試験の知識をつけることも重要であると考えています。

 また、当科の最大の特徴は、高いInterventional oncologyの技術を有していることです。肝臓癌に対するラジオ波治療、胆道・膵癌に対する胆道ステント、消化管狭窄に対する消化管ステント、早期胃・大腸癌に対する内視鏡的粘膜剥離術(ESD)などの手技は技術力・症例数とも世界のトップクラスです。消化器癌患者をInterventionと化学療法で治療する我々が本物のOncologistであると自負しております。

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D. 胃食道外科

 胃食道外科においては、胃癌、食道癌に対し、検査、手術のみならず化学療法も施行しております。手術はガイドラインに沿った術式と共に、早期胃癌に対する腹腔鏡下手術を行っています。化学療法は術後補助化学療法、術前化学療法、進行再発癌に対する化学療法の3本立てで施行しています。とくに術前化学療法として、根治手術可能進行胃癌に対するTS-1/CDDPの有用性についての自主臨床試験を施行しています。進行再発胃癌に対しては、外来化学療法を積極的に施行しています。

 食道癌に対しては、化学放射線療法を含む集学的治療を施行し、再発食道癌に対する自主臨床試験も行っております。またサルベージ手術などの高度の手術も行います。
 がん医療のプロフェッショナルを目指す方々には検査から、手術、全身療法とすべてに近い治療法を網羅した全人的医療をぜひ、体験していただきたいと思います。

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E. 大腸肛門外科

 大腸肛門外科は下部消化管領域の外科治療を中心に行っていますが、化学療法や放射線療法を利用した機能温存手術にも力を入れてきました。特に当科が積極的に行ってきたのは直腸癌に対する術前放射線療法あるいは術前放射線化学療法です。これによりリンパ節郭清範囲を狭めて術後の排尿・性機能障害を減少させることが可能になりました。また、従来は人工肛門を造設する必要があった患者さんも、術前治療により腫瘍の縮小が得られた場合は自然肛門を残すことができるようになりました。術前治療以外にも、術後補助化学療法や再発癌に対する標準的治療も当科で行っており下部消化管領域の化学療法は全て実習することが可能です。

 また、従来は人工肛門を造設する必要があった患者さんも、術前治療により腫瘍の縮小が得られた場合は自然肛門を残すことができるようになりました。術前治療以外にも、術後補助化学療法や再発癌に対する標準的治療も当科で行っており下部消化管領域の化学療法は全て実習することが可能です。

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F. 乳腺内分泌外科

 乳癌は化学療法の感受性が高く治療が効果的な疾患です。当科ではFEC followed by Taxanによる術後補助化学療法に加え、適応を絞り術前化学療法を施行しています。術前化学療法のメリットとして、腫瘍の縮小により乳房温存手術が可能になること以外に、化学療法剤による腫瘍内の酵素、蛋白の経時的変化を把握することが可能になることがあげられます。当科では、アンスラサイクリン、Taxan系抗腫瘍剤さらには分子標的剤による多剤耐性蛋白の変化、癌遺伝子、アポトーシス関連遺伝子の変化を検討しています。

 また、Tegafurに5-FU分解阻害剤とリン酸化阻害剤を加えた合剤S-1の腫瘍内での酵素活性の変化は知見が得られていないので、腫瘍内のFdUMP, thymidylate synthase活性、リン酸化活性代謝物の変化を手術検体より解析しています。以上のようにオーダーメード化学療法への臨床応用を目指した研究に力を注いでいます。

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G. 放射線治療

 がん医療における放射線治療の重要性は年々増すとともに医療施設への新しい治療装置の導入が進行中であり、そうした治療装置の品質維持・管理、放射線治療計画の実施するに不可欠である放射線物理学を十分に熟知した放射線治療医や医学物理士・放射線治療品質管理士の人材育成が急務となっています。

 インテンシブ放射線治療コースでは、東大病院もしくは連携病院における放射線腫瘍学研修を通じて放射線治療に関わる臨床腫瘍学、さらに品質管理技術と放射線治療計画技術に関する経験と知識を修得していただきます。

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H. 緩和ケア

 東京大学医学部附属病院の緩和ケアチームにおいて、一般病棟で提供できる身体症状のコントロールの概要について習得して頂きます。また、精神症状のケア、家族ケア、スピリチュアル・ケアについての概要も取得することになります。さらに、指導医とともに緩和ケア実施計画を立案し、「悪い知らせを伝える」コミュニケーション・スキルの概要などについても学んで頂きます。緩和ケアチームのカンファレンス(毎朝1時間程度、月~金)への出席は必須です。その他、東大病院キャンサーボード、他診療科との合同カンファレンス、東大CPCなどにも指導医とともに積極的に参加することが望ましいです。

本コースは3ヶ月から1年の履修期間となり、インテンシブコース修了の可否は以下の条件を満たした者とします。

①360時間以上の緩和ケア実習
②日本緩和医療学会認定専門医を取得する為に必要な症例報告として認定されるレベルの症例を10症例以上提出。3ヶ月以上履修期間のあるものは、地域での緩和ケア関連施設で学習した症例を10症例以上提出。
③がんプロプロフェッショナル養性プラン合同セミナー講演に3回以上出席。

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I. 病理

 病理では,患部から採取された組織について,肉眼と顕微鏡で詳細に観察し病理診断を下しています。病理診断には,それが腫瘍か否かというだけでなく,腫瘍であった場合は,良悪性の診断,その種類や組織型,悪性度に関する情報なども含まれます。そして,臨床担当医はこれらの病理診断情報を基に治療方針を決定しています。さらに,外科手術や内視鏡的切除などで採られた検体に対しては,術前診断の再評価,がんの進行度や手術によってがんが充分に採り切れたか,さらには予後に関する因子の評価などを行い,これらの情報はその後の治療方針の決定にも役立っています。

 このように、病理診断はがん医療の根幹で極めて重要な役割を担っており,がん医療のプロフェッショナルを目指す方々には,是非,その実際を体験して頂きたいと考えています。

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